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「どうしてですか」「どうしてもだよ」「俺何かわるいことしましたか」「なんにもしてないよ」「ならどうしてですか。俺のこと、きらい、になりましたか」「そんな、」
そんなことあるものか!私は声を大にして叫びかけ、すんでで押しとどまった。
心臓が激しく私自身を急き立て、この胸の中をすべて吐露してしまいたいという、その欲望ばかりが脳味噌をかけめぐる。
お前がいとおしくていとおしくていっそ狂ってしまいそうなほどである、と。
現に今だって指がひくついてしかたないのに。
「せんぱい、」
顔を歪めて、三之助はつぶやいた。
いつのまにか私を追い越した背丈は高く、じわりと伸びゆく黒い影は足元にくすぶっている。
「だめだよ」
こちらへ踏み出そうとした片足に向けて声を放つと、三之助はぴたりと動きを止めて、また眉を寄せた。
ちがう、とそこで私はまた動揺して頬が引き攣ってしまう。
お前にそんな顔をさせたいわけではない。これはお前のせいでなく、すべて私の責任であるから、だから、私には考え直さなければならない問題が山ほどあるのだ。
どうして分かってくれないのだろう?私はお前が怖くて、何よりも自分を恐れている。
「せんぱい」
「だめだよ三之助。私は、」
唇を噛んで俯くと、視界がやんわりとにじんだ。
手の甲でぬぐうと、瞼がひそやかに熱をもった。
(だめだだめだだめだ私にはどうしようもない。どうすることもできやしない)
ざり、と砂をかすめる音がして、私が顔を上げるとほぼ同時に目の前は萌黄に覆われた。
「せんぱい、俺のこと、すきですか」
「さんのすけ」
「すきでしょう。ねぇ、そういってください」
大きなてのひらを背中に回し、きつく寄せられる体に呼吸を忘れる。
彼の肩越しに見える空は赤く燃えていて、いっそ苦しいほどに視界が揺らいだ。
「俺はあんたにそれ以上望まない、から」
そういって私の顔を覗きこむ、その瞳、ああお前、私はそれが駄目だというのに。
潔癖の拒絶
(09.04.07)