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なんでこんなことになってんのかなあ、とわたしはぼんやりと考え込んだ。
考え込むほど複雑な事柄じゃあないんだけど、だって答えは明白だ。目をつむったって答えられるほど、めいはく。
ゆらゆらと身体が揺れるのに合わせて思考もぐらぐらとぶれて、遠くに見える景色がぼやける。
わたしは考えることをやめて、目の前の、ひょろっとした体躯のわりに大きい背中に頬を寄せた。
しみだすような体温と、ちいさく存在を主張する心臓の音がつたわってくる。なんだろう、ひどくねむい。
「寝ていいぞ」
ぽつんとつぶやいた彼は、よいしょ、と声を出しながらわたしを抱えなおす。
「せんぱい……」
「謝んなよ、失敗なんて誰にでもあんだからな」
その言い方があんまりにつよく胸に沁みたので、ああきっとこの人も今までいろいろな苦労をしてきたんだなあと思った。わたしなんかより、ずっと。
たしかに、先輩もけっこうドジだ。よく何もないところで転んでるし、この前は子供にからかわれていたし、書類は不備ばかり。
でも今回は、そんなささいなことじゃない。あの重要書類は敵の手に渡ってしまったし、負けたからって団の機密事項をぺらぺら喋ってしまった。
それがどれほど重い罪なのか、先輩だって、分かってるはずなのに。
「わたし、どうなるんでしょう」
未だ足にまとわりつく痛みをこらえながら、先輩の背中に問う。
先輩はさあな、とすっぱり返してきたけれど、語尾がかすかにかすれたことにわたしが気が付かないはず、ない。
最悪の事態を想定して、背がすっと冷えた。
「……ころされちゃう、かな」
「ひゃひゃひゃっ!ばぁか、んなわけねーだろ!せいぜいロケット団やめさせられるくらいだ」
からからと笑い飛ばす先輩のことば、それは励ますためのものだったんだろうけど、わたしはそれを聞いてますます落ち込んだ。
もちろん死にたくはないけれど、放り出されたくもない。わたしには行き場がない。
「やめたくない……ずっと、あそこにいたいです」
「……いや、お前はやめたほうがいい」
先輩がふと足を止めて、こちらを振り仰いだ。いつにない真剣な目に、声に、呼吸が一瞬とまる。
「そもそもお前には、こういうとこ似合わなかったんだって。甘ぇんだよ」
「そんなこと、ないです」
「そんなことあるんだよばぁか。ガキ相手に手加減しやがって」
「……」
先輩、抜けてるくせに人のことちゃんと見てるんですね。ぼそりと呟くと、抜けてるは余計だとののしられた。
「それに、オレがちゃんと見てるのはお前だけだよ」
「はあ」
「……面白くねぇの」
はん、と鼻で笑ってまたわたしを抱えなおす先輩の耳は赤い。
それを指摘しようかどうか迷って、思い直したわたしは先輩の首に回す手を強めた。
早くなる心音に気付いたのか否か、押し黙ってしまった彼に背負われたまま、人気のない道をとぼとぼと進むわたしたちはきっと、傍から見たらただの負け犬なんだろう。
それでも構わない。わたしたちはしたっぱのしたっぱで、当て馬で、弱くて、逃げ足ばかりが速い。そんな、ちっぽけな人間だ。そんなことくらい、じゅうぶん分かっているのだ。
「わたし、やめろって言われてもやめません」
「おい……」
「先輩のそばにいたいから」
そうだ、これくらいのドジがなんだっていうんだ。わたしたちは泣く子も黙るロケット団、ほんのちょっとの失敗があったって、ロケット団は揺らがないのだ。
ランスさんはああみえてけっこう甘いところあるし、ラムダさんなんて甘々だ。アポロさんとアテナさんだって味方してくれるはず。こうなったら泣き落としでもなんでもしてやろう。
あの方達と心中する覚悟は、とうの昔にできているのだ。
「な、…っ」
「今日の食堂のメニューなんでしょうね」
わたしを見上げようとする先輩の頭を押さえつけて、無理に声を張り上げた。こうすると、基本的に彼のおつむは弱いので、簡単に流されてくれる。
「え、ああ……たしかからあげ定食」
「一緒に食べに行きましょうよ、先輩」
「お前はまず医務室行きだ、ばぁか」
何度でも
何度でも
何度でも
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(10.04.14)(R団のしたっぱが好きすぎる件)