ぐるり、ぐるりと回転を続けてやまない世界が、いつしか息を引き取ってしまうんではないかとオレはつねに恐れていた。 今のところ実現しそうにない、果てのない妄想である。 だが、たとえでもそうなってしまうんだとしたら、オレはおとなしく剣を地面に置き、両手を組んで神に祈ろうと思っていた。 実際のところ、オレは時代の波にもまれて投げ出され、剣は捨てた。神に祈る間もなく、オレの生涯は終わろうとしている。
「どうしてさびしいんだろう」
ため息とともに吐き出された言葉は、たいそうお粗末なものであった。傍らで膝を抱えている女は、目を伏せフローリングの床に足先をこすりつけている。
「さあな」
追いすがるように絡めとられた腕が、四角い部屋でわずかに光を帯びている。 このちいさな部屋の、ちいさな窓の向こう側では、朝と夕が交互にやってくる。オレたちはそれをひたすらにみとどけていた。
「ギルベルト」
「なんだよ」
「好きっていって」
肩に重みがかかった。さらりと流れる黒髪が頬にかかり、首筋に垂れる。 懇願する声はか細く、今にもその像をかき消してしまうのではと案じてしまうほどであり、思わず指をのばすと、白くつめたい線をとらえた。
「……それで、おまえは満足か」
「だったら、わたしを好きになって。わたしはギルが好きだから、そしたら、きっとさみしくなくなるよ」
首を傾け、俺を見上げてほほえむ女の瞳は柔和の光を放っている。それはひどくあたたかく、かなしげである。 その表情は、なにか大きなもので満たされているように感じられるのに、なぜかオレの胸の奥底はぽっかりと口をあけた。
「もう、好きだよ」
腰に手をまわして引き寄せると、ちいさく笑う声がする。
「うれしいな」



ああオレたちはこうやって心にもないことを言い合って、わらって、求め合って、誰彼はきっと馴れ合いだと零すんだろう。 古傷を舐めあってなにが楽しいものか。よけいに傷口を濡らし、化膿させ、いたみを悪化させるだけだ。 それと理解しているはずなのに、何故突き放すことができないのだろう。 (あい、してる ?) ただむなしいだけだ、こんなの。すくわれたくて伸ばした腕は、むしろ自らをおとしめているのだと、なぜ気がつかない。オレも、おまえも。







誠実な嘘




(10.06.08)