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今日、見事オレのハートをつかみ、正式な彼女の座に就任したを、自宅へ招いた。
とりあえず今までの女のように、さっさとやることやってポイ、というわけにはいかない。オレなりに彼女のことはとても大事に思っている。
これを話すと、オーバはいい変化じゃねぇか、と笑ってにやにやしていた。たいそううざかったので手に持っていたライターでその赤アフロを燃やした。
まあ、その腐れ縁の燃えた髪の毛の話はどうでもいいのだが、これをわざわざ奴との会話の中で口にしたのは、他でもない、家に招いて何をやるか、という問題が発生したからだ。
今までまともに恋愛などしたことのないオレは、当然のごとくまともに女と付き合ったことがない。
何をどうすればいいのか、見当もつかない。女をつれこんだらやることは一つだろうと下卑た笑いを浮かべる男にはかみなりを落としてやる。目的はセックスじゃない、彼女自身である。
では付き合ってしばらくは何をしていたんだと問われれば、オレは胸を張ってこう答える。「ナギサの海を眺めながらおはなししてた」と。
文面だけならばなんともロマンチックな響きにむせかえるような甘ったるさを覚えるのだが、事実を言うならば、単にそれがオレたちの習慣だったから。それだけだ。
出会いも告白もナギサの浜辺だった。親しくなり、ときめきとやらを母親の胎内に置いてきたようなオレが不意に恋に落ちたのも、浜辺に佇む彼女の姿を見つけた瞬間からである。
思い返してみれば不自然なほど、オレたちは海岸でしか言葉を交わしていない。明日もまたここで、というのはもはや暗黙の了解になっていた。
逆に言えば、そこがオレたちの、そしてオレの観点からいえば、デートの場だった、というわけだ。もちろん彼女の友人という座に甘んじていた頃の話である。
まあ、その雑談の際にうっかり、ぽろっと、告白をしてしまったわけだが、夕日のためだけでない彼女の赤らんだ頬を、オレは未だ鮮明に覚えている。
ちなみにひたすら赤面する彼女に欲情しその場で押し倒したくなったのはオレとレントラーだけの秘密である。(あまりにあふれとどまらぬ欲望だったため話さずにはいられなかった)(レントラーはこんなオレを哀れみのこもった目で見ていた)
「お、お邪魔します」
「ああ、いらっしゃい」
チャイムの音を聞き、扉を開ければ、何故かひどくかしこまった感じで挨拶をする緊張した面持ちのが立っており、その様をかわいいなと思いつつ笑顔で招き入れたオレの手が汗でびしょぬれだったことは、けして彼女に悟られたくない事柄である。
まるで思春期真っ盛りの中二男子だ、どうしよう我ながらきもちわるい。
先に案内してから、タオルで手を拭きつつ飲み物を準備し、また部屋へ、すなわちオレの自室へと慎重に持っていく。
リビングはいつもレントラーやエレキブルが占領していて、滅多なことじゃどかないからオレの部屋にしようかという理由だが、本当のところをいうとオレが奴らに占領させた。やはり部屋がいいだろう。
いや、べつにやましいことなど何も考えちゃいない。ただ緊急事態に備えてだな、ソファだとせまいし、床はいたいし、いやオレはそんな節操のない男じゃないけどね。念のためだ、ねんのため。
屁理屈を捏ね回している内に到着したが、両手がふさがっているため、ドアを開けることができない。
中から開けてもらおうかと悩んだが、いらんとこで男の意地がでしゃばってきたため、彼女の助けなんていらない、一人でできるもん!肘でむりにノブを押しドアを開ける。するとそこには、床に顔をこすりつけているの姿があった。語弊だ。必死にベッドの下をのぞきこもうとしているがいた。格好が格好である。幸か不幸かこちらに尻を向けて、高くあげている。スカートに隠れたパンツがちらちら見えるのもまたよい。
初めに状況説明をしたように、目の前に広がる光景、はむしろ床に這いつくばっているようにすら見えて、正直Sっ気のある俺は興奮した。たいそう興奮した。思ったことが顔に出ない性質でほんとうによかったと思う。
ひとまず荒れ狂った本能を理性で沈めるべく、オレはごほんとひとつ咳払いをした。彼女の肩がびくりと揺れる。
「うえ!?で、デンジさん!」
どれだけ集中していたのか知らないが、ようやくオレの存在に気付いたはあわてて起き上がる。乱れた髪を手で直しながら、たった今の自分の醜態を誤魔化すかのように照れ笑いを浮かべた。
ああ、やめてくれ若い男の子にはなかなかきついんだよそういうの!オレは必死に意識を明後日に追いやって、テーブルの上にお盆を置いた。
「何してたの」
「え、いえべつに、その、……へ、部屋を綺麗にしているなあ、と……」
これほど嘘と分かる嘘もないだろうな、と冷静な頭が言った。仮にそうだとして、ベッドの下までチェックするなんてお前は小姑か。
「エロ本はないですよ」
「……え!」
「きのう全部捨てたから」
「……はは……正直ですね……」
隣に腰を下ろそうとしたら、さりげなく距離を置かれた。しくじった、彼女には下ネタ耐性が備わっていないようだ。けっこう鍛えたはずなんだけどな。いや逆にそのせいなのか。
オレは気が付かないふりをして、彼女にコーヒーを渡そうと手をのばす。
きちんと礼を述べた彼女がカップを受け取ろうとした瞬間にさっと上に持ち上げた。困ったように視線をさまよわせるはかわいい。すごくかわいい。
思わず口の端をつり上げてしまった。やってることが小学生並?それがどうした。いじめだってそこに愛があるなら、かまわないんじゃないかってオレは思うね。
「……デ、ンジさん」
「もっと近くに来いよ」
「で、でも……」
「」
やさしく甘ったるく呼びかけてやると、は言葉に詰まり、みるみるうちにその白い頬が火照りだした。彼女は甘えられることにたいそう弱いのである。
―――さて、はたして無防備に寄り添ってくる彼女が無事帰宅できるかどうかは、このオレのちぎれかかった理性にかかっているわけだが。
男は狼なのよ、気を付けなさい
(10.06.06)(変態なデンジが書きたかった、それだけだ(`・ω・´)キリッ)