※現代パロで綾部がおんなのこ
※百合(レズビアン)表現有





















































「せんぱいは、きれいですね」
夕暮れの差し出す光が、あんまりにせんぱいに似合っているものだから、思わず私はこう呟いていた。
言い終わってから、はっと気付くものの、こちらを振り返ったせんぱいは、決して赤い夕日のせいだけではないだろう赤い顔を私に向けた。
その拍子に踊る髪は、やはり黒く美しい色で、艶めいている。
「何言ってるの、あやべ。あやべのほうがかわいいでしょう」
「せんぱいのほうがきれいです」
もう一度繰り返すと、いよいよせんぱいは恥ずかしくなったのか、照れ隠しに笑顔を浮かべて、ありがとう、とはにかみながらお礼を言った。
私はそんな彼女の笑顔がとてもとても好きで、それを見るたび、心臓が通常より何倍も速く動いてしまうのだった。


ときどき思うのは、私は持つべきものを持たずに、持つべきでないものを持って生まれてしまったということだ。
XとY、たったこれだけの違いで、どうしてこうも物事はうまくいかなくなってしまうのだろうか。


視線を落とすと、重たくて邪魔な二つの脂肪の膨らみと、ひらひらとした布切れから伸びている二本の足が見える。
これらがとても恨めしく、悲しく、私を奇妙なほどの破壊衝動に駆らせるのだ。



「あやべ、」
ふと柔らかな声が私を呼ぶ。
顔を上げると、椅子に座って書類整理をしていたせんぱいは、またこちらを見ていて、視線が交わると、申し訳なさそうに謝った。
「どうして謝るんです」
「もう外暗くなってきたでしょう。付き合わせて、ごめんね」
「私が付き合いたいと言ったのです」
言い募ると、わたしは良い後輩を持ったなぁとくすくす笑った。



その言葉が、また私を不幸のどん底へ陥れるのだと、彼女は気付いていないのだろうか。
私の胸を巣食う痛みは、どうしたって癒せやしないことを、彼女は知らないのだろうか。
自分自身でも他の男でもなく、せんぱい、私はあなたに愛してもらいたいのです。あなたでなくてはだめなのです。
痛みも快楽も悲しみも苦しみも、すべて受け止める覚悟だってできているのに。





「せんぱい」
「……あやべ?」
私はせんぱいの背後に回って、その華奢な体を腕の中に収めた。
とはいっても身長は私の方が小さいので、しがみついたといったほうが正しいかもしれない。
乱れた心音は、恐らく彼女にも伝わっているだろう。
「せんぱい、せんぱい」
「どうしたの、あやべ」
頬を肩にこすりつけると、ふわりとした甘い香りが鼻腔をくすぐった。
何ともとれないあるものが背中を支配し、体を震わせた。
「せんぱい、すきです」
「あやべ」
「すきなんです」
手に力をこめると、わたしも好きよ、あやべ、とせんぱいは優しく囁いた。そうして耳元にかかる息すらも甘い。
私は吐息にくらくらと酔いながらも、途切れることなく押し寄せる感情の波に、飲まれてしまいそうになっていた。
違う、こんなのって、私らしくもない。

泣いてしまいそう、だ。

「……あやべ?」
「せんぱ、私は、」
うまく答えにできないこの口がもどかしく、いっそ切り取ってしまいたくなった。
「ちがう、そうじゃなくって、」
首を振ると、髪をくしゃりと撫で、好きよ、とせんぱいはもう一度言ってくれたけれども、それだって決して私を幸せにはしてくれなかった。
ただ苦い味が、胸の内にぷくりと生まれ死んだそれだけで、あとには何も残らない。








(08.11.11)(やっちまった感が満載)