いつかこのあおい海に抱かれてしねたなら、となんどもおもう。 羨望、渇望、そして恍惚。 つめたいからだが泡にとけたら、こんなみにくい自分も洗浄されて、あの人のようにきれいになれるだろうか。切望。



「そうだなあ、俺もしぬのならここがいい」


猫のような瞳をぎゅっと薄めて、網問さんはつぶやいた。 傷だらけのおおきなてのひらをかざし、ここがいい、ともう一度いった。
「たぶんさいごまで痛くないよ。くるしいのはほんの一瞬だけだ」
「そうかな」
「そうだよ。なんならためしてみる?」
わらうでもなく、かといってまさかおこるでもなく、平然とした顔で彼はたずねた。 まるで今から釣りでもしましょうか、と誘われたようなきもちで、わたしは傍らのそのひとを見上げた。 光に焦がされて色素のうすい髪が風にあそばれている。



「きみならきっとね、」
「なあに」
「海もよろこんでくれるだろうさ」
そうしてわたしのてをにぎる、ならば吐瀉物の塊だろうとあなたは受け止めてくれる か。





無理心中

(09.03.07)